防災推進国民大会 2021 セッション/日本学術会議公開シンポジウム/第 12 回防災学術連携シンポジウム
防災教育と災害伝承
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防災教育と災害伝承への多様な視点(2021年11月6日18時05分~)
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当日のシンポジウム終了後に質問用紙にて寄せられました質問に対して回答させて頂きます。
防災教育の重要性と釜石市の奇跡がよく理解できました。一般には「津波避難三原則」は震災前から教育されていたと言われていますが、事実でしょうか?特に「想定にとらわれるな」を、もし震災前に認識し、実践されていれば、大変素晴らしいですが、当時の資料を拝見すると、既存の津波ハザードマップや避難場所を確認するように指導していたように思われます。今回の震災では、生徒が自主的な判断でより安全な避難場所に避難した、というのが現実であり、「津波避難三原則」はそのような経験を踏まえて、震災の後にまとめられて提唱されたように思えます。この認識で正しいでしょうか? あるいは、もし「津波避難三原則」に関する震災前の資料などがありましたら資料の名称等だけでも、ご紹介頂けると助かります。

「津波避難3原則」は震災前から教育されておりました。事実です。
私のおりました釜石小学校は、小学生ですので、「3原則」という言葉では表現してはおりませんでしたが、
「釜石市津波防災教育のための手引き」で、例えば、51ページの指導等で避難のポイントを教えておりました。
釜石東中学校、鵜住居小学校は「津波避難3原則」で指導しておりました。
「いのちをつなぐ未来館」の小中生向け見学のワークブックを、釜石出身の岩手大学生と作成(試行)しております。(加藤礼子)
釜石は一度訪れましたが、あまり被災地という感覚を覚えませんでした。が、今回のご講演の中で用いられた写真や、地図を見て、「この場所がこんなになってたんだ」と少し驚きました。今一度、震災当時のことを写真などで振り返る重要性を感じました。同時に、そのように写真で震災当時のことを振り返れる場所が、いのちをつなぐ未来館うのすまい・トモスのような伝承館なのかな...とも感じました。
時々、涙ぐみながら聞かせていただきました。写真を見たり、当時の子ども達の様子を聞いたりすると、その方たちの気持ちを考えてしまい、涙が出ます。私たちに理解できるような気持ではないと思いますが。

ぜひ一度、「いのちをつなぐ未来館」においでください。鵜住居地区にありますので、どうしても釜石東中がメインに展示されておりますが、下校後ばらばらのところにいた釜石小学校も昨年度展示内容を充実させたところでした。釜石市全体の被災状況もご覧いただけますし、スタッフの中には当時、釜石東中の生徒だった者もおりますので、事前に連絡をいただければご案内可能です。(加藤礼子)
寺田寅彦は「天災は忘れたころにやってくる」という言葉を書き残していないので、引用には慎重であってほしい。

寺田寅彦の著作集を確認したところ、「天災は忘れたころにやってくる」という言葉を書き残した、ということは認められませんでしたので、資料を修正しました。彼が書いた「津波と人間」(1933年)の中で似た趣旨のことを書いていますが、それは、「人間の寿命と地震津波の週期(原文のまま)」は無関係というのが趣旨と思います。
「天災は忘れたころにやってくる」は、寺田の没後、中谷宇吉が語った言葉が新聞報道されて流布した模様と思います。(西澤泰彦)
「災害は地震だけでなく、日常の中に大小さまざまなものがある」という言葉に、「そうだよな」と感じました。災害は地震・津波だけではないので、このようなシンポジウムで、地震以外の災害についても講演を聞きたいです。地震に対する対策も大事ですが、それ以外の災害に対する対策も重要だと思いました。

私が説明した「災害の記憶を継承する工夫」は、そもそも2021年3月6日に開催された日本建築学会主催「東日本大震災10周年シンポジウム」におけるWG5「災害の記憶を継承するまちづくりをどのように進めるか」での各地からいただいた情報を基に構成しました。さまざまな災害が常に起きているのが日本列島です。そのような認識に立った時、これから考えなければいけないのは、複数の災害が同時に起きる複合災害への対応です。明治熊本地震(1889年)では、梅雨の長雨で洪水が起きた後に地震が起きています。今回、コロナ禍での水害避難も同様です。二つ以上の災害に同時に対応できる工夫が必要ですが、過去にも似たことは起きているので、先人の工夫を把握することも必要です。(西澤泰彦)
都市の復興計画を策定する際に、一つ都市に対して、複数の復興計画があります。そして、技術の選択肢も複数あります。その場合は、導入のコストを含めて、投入と産出の効果に関して、どのように評価しておりますか。

費用対効果については、復興計画策定時には基本的には考えられていません。ただし、今後の復興においては、予算の限界が生じる場合が想定され、その場合にはご指摘のように、各事業の費用対効果を考慮したり、計画の枠組み自体の変更を迫られたりすることになるかと思います。(姥浦道生)
伝承碑として認定・掲載されるには、どういう手続きを踏めば良いですか。

地理院地図等で自然災害伝承碑の情報を掲載するにあたっては、市区町村において管内の自然災害伝承碑について自ら把握していただき、国土地理院へ申請していただくこととしております。市区町村担当者からの申請手続方法については
国土地理院のHPの伝承碑サイトでご確認ください。(岡谷隆基)
神奈川県内の者ですが、自然災害伝承碑は自治体によって温度差があり、進まない現実があります。そのための工夫はどうあるべきですか。

地理院地図等における自然災害伝承碑の情報掲載は市区町村からの申請に基づいております。国土地理院もHPやTwitterなどを通じて普及啓発を行っております。
また、教育分野や地域学習などでの伝承碑の活用事例も収集し
HPの伝承碑サイトへ順次掲載しております。
さらに、今回のシンポジウムなどの様々な取組を通じて、自然災害伝承碑の活用に関する意識の醸成を図っていくことが重要と考えます。ちなみに、神奈川県の箱根町は、ジオパーク推進室が町内の自然災害伝承碑の情報を、町の広報で町民から求め、10基を登録しております。町のジオパーク推進室が防災教育の一施策として、地理院地図に搭載した自然災害伝承碑を活用しております。
参考資料 (岡谷隆基)
災害経験をどのように次世代へ継承するかについては、私自身、教育学部所属の教員として興味があり視聴させていただきました。報告されていた福島県のふるさと創造学は、課題探求型の学習であり、災害などを自分事として学ぶには効果があると思われます。岩手県でも大槌町が独自に「ふるさと科」を設けて、小中学生へ「地場産業」「災害伝承」「地域文化の伝承」を行っております。災害の伝承は、マイナスと思われがちですが、自分の住んでいる地域の特色を知ることであり、発災のときに何をすべきかを考えることのできる主体的な個人(将来のリーダー的な住民)を育むためには重要なことと考えます。その意味でも、10年先、20年先を見据えた教育が必要だと改めて実感しました。

重要なことは、大槌町が独自に「ふるさと科」を設け、そこで災害と復旧復興にかかわるプラス・マイナスの両面を取扱っていることです。どのような取組みをされているのか、是非、教えていただきたいと思っています。(山川充夫)
「福島復興学」という言葉は初めて聞きました。確かに福島は原発事故があった分復興が遅れてますし、複雑な問題を抱えています。しかし、「福島復興学」という名前を付けてしまうことで、「福島はどこか特殊」という感覚を一般市民に与えてしまわないか、不安を覚えました。福島は特殊...という感覚を与えてしまうことで、福島(の魚や肉、野菜など)への差別的な見方が広まってしまいそうだと思いました。
地理総合という科目が必修科目になり、その中に防災の分野も入っているとのことでしたので、今後の防災教育の広がりに期待したいと思いました。

私は「3.11」の時には福島大学に勤務し、東日本大震災・原発事故災害の影響をうけました。福島駅西口前で「給水車」を待って並んでいた時に雪がパラついており、後で、それには放射性ヨウ素が付着していたことを知りました。「3.11」後には、福島大学「うつくしまふくしま未来支援センター」が設置され、センター長としても大学教員としても福島復興支援に関わり、ここでの活動経験が「福島復興学」研究の出発点になりました。確かに原発事故とその外部放出による放射能汚染のメカニズムや放射線健康影響評価、エネルギー選択における原子力の位置づけなど、「福島のことは分かりづらい」とかいわれています。しかしこの「わかりづらさ」がもし「福島は特殊」ということに繋がり、さらにそれが差別的思考としての「風評」害につながっているとすれば、そのことを正していくことは日本国民として大切であると思っていますし、「福島復興学」が学術的観点から正していくことに貢献できれば幸いです。また質問者の方は、福島原発災害によって多くの家畜やペットが避難を拒否され、理不尽にも薬殺や野生化させられたことはご存知だと思います。これも「福島は特殊」の例かもしれませんが、なぜそうなってしまったのかを正しく検証していくことが今求められています。「ふるさと創造学」や「福島復興学」ではこうしたマイナス面に限定することなく、豊かで住み甲斐のある福島をどのように創造・復興していくのかといったプラスの面が学べるものでなければならないと思っています。「地理総合」科目は、防災教育にとどまらず、地域づくり、地球温暖化、SDG’sなどの諸問題にグローカルな視点で学ぶことが組立になっていますので、機会を見つけて、学んでいただけたら幸いです。(山川充夫)