防災推進国民大会 2022/セッション日本学術会議公開シンポジウム/第14回防災学術連携シンポジウム

自然災害を取り巻く環境の変化-防災科学の果たす役割-


関連シンポジウム:自然災害を取り巻く環境の変化-防災科学の果たす多様な役割-(2022年10月22日18時15分~)
当日のシンポジウム終了後に質問用紙にて寄せられました質問に対して回答させて頂きます。
基調講演:「人類の活動による環境変化と災害の多様化」米田雅子 (日本学術会議第三部会員、防災減災学術連携委員会委員長)
「人新世」のなかで近年における特異の災害は、東日本大震災を契機とする東京電力福島第1原発災害です。この複合災害(すなわち「原発立地災害」)に防災減災学術連携委員会はどのように向き合おうとしているのがか不明です。「原発立地災害」についての取扱いにかかわるご説明をお願いできれば幸いです。より具体的には、全体では「人類の活動による環境変化と災害の多様化」をテーマとされていますが、実質的には「自然災害」に限定されています。またスライド17「令和の産業の構造転換と再配置/…」を引用して製鉄所・製油所・石油化学コンビナートが取上げられていますが、最も危惧される産業施設である「原子力関連」については取上げられていません。ご説明をよろしくお願いいたします。
基調講演が実質的に自然災害に限定されていたとのご指摘を頂きました。防災減災学術連携委員会と防災学術連携体は、定款などで自然災害を対象にすると規定されているため、主に自然災害について話をしました。次に、原子力防災への言及がなかったことへの厳しいご指摘については、言われるとおりと思います。専門的な知見や判断が必要になりますが、今後、原子力防災について検討して参ります。
土地保有について、冒頭で公的な土地保有へとの言及がありましたが、産業利用や特に海外事本の場合などに公益的な防災の観点や公共圏の保全という意味から、今後どのような方策が考えられるでしょうか。
長期的には、人口減少下で、自然災害の危険性の少ない土地に人々を誘導すると共に、人々が移動した後の土地は、農林水産業などで活用しながら、豊かな自然に戻していくのが良いと思います。日本の土地利用制度は開発型が中心です。今後は、自然回帰を推進する土地利用制度を創設してはどうでしょうか。自然に還す土地は公有化を進め、危険箇所には土砂崩壊防止等の措置を行いながら、多面的な機能を発揮できるように誘導していくのが望ましいと思います。
日本気象学会「線状降水帯:その実態と予測精度向上にむけた学官連携」安田珠幾
線状降水帯の発生が「激増」しているという論調が聞こえてくることがありますが、それは本当でしょうか?。自分は、徐々に増えているくらいの認識です。劇的に向上したのは、それを検出する能力のように思えるのですが。
全国の短時間大雨の発生頻度は長期的に増加していることは明らかとなっていますが、線状降水帯そのものの変化についてはわかっておらず、研究が進められているところです。
線状降水帯が立て続けに発生した場合などは、リスクをより高く見積もって、更に早めに伝えたりする方が良いのでしょうか。
線状降水帯が発生すれば、大雨災害につながる危険度が急激に高まることがあるため、ご指摘のとおりより早期にお伝えすることが重要と考えます。予測精度や必要となる防災対応等を考慮して、より効果的な情報発表に努めてまいります。
地震の場合は震度は地震後に報道がありますが、雨の場合、降雨後に最終何ミリという報道はほとんどありません。もしあれば、あれくらいがあの降り方ということがわかり、被災しない場合でも、危険性を降雨のたびに感じることができるのではないかと思います。
気象庁では、大きな災害をもたらした気象事例について、降水量など気象データを含む報告をとりまとめ、ホームページで公開しています。なお、大雨災害の場合、同じ降水量でもその土地の環境や状況によって災害の起こりやすさは変わってくることに留意する必要があります。<災害をもたらした気象事例>

砂防学会:「気候変動や森林荒廃に伴う土砂災害の被害軽減に向けて」小杉賢一朗
スネーク曲線は、例えば地盤や建物の強度などは考慮されていないと思うのですが、その点とリスク測定や伝達については、今後より詳細にしていく方が良いのでしょうか。
詳細にしていく方が良いのではないかと思います。例えば,個々のお宅ごとに,立地や建物強度等から見てどのような避難が必要か,防災担当者が事前にアドバイスしておくなどの方法が考えられます。降雨中には,降雨規模に関する客観的かつ分かりやすいデータをリアルタイムで提示し,住民が個別に判断できるようにすることが重要であろうと考えています。
「避難区域」を指定した場合に、「避難ルート」について、事前に確認していない人々についての「安全な避難ルートの状況」は、避難時にも分かりやすく伝えられるでしょうか。
危機が差し迫った豪雨中の状況下で分かりやすく伝えることは容易でないと思います。やはり,安全な避難ルートは,事前に確認しておく必要があると考えられます。
住民本人の記憶に頼ると、「この間大丈夫だったから」というような正常バイアスが働くこともあると思うのですが、「普段と違う」ことへのアンテナが働く時とそうでない時の境目に、何かご助言ありますでしょうか。
未経験降雨指数などの客観的なデータを提示し,「この間大丈夫だった」ときよりも現在の方が大規模降雨になっていることをわかりやすく伝えることによって,避難を促進できるのではないかと考えています。

日本建築学会「流域治水に資するレジリエントな建築環境の構築」長谷川兼一
東日本大震災の時に、被害の範囲が大きかったために住宅被害の診断への専門家が足りずに他の分野の公務員が対応したという報道を見ました。浸水被害においても被害を判断する専門家の充足が必要だと思うのですが、常時の段階で、今後どのように専門家を充足していきますか。(防災に関わる自治体の専門家が非常に足りないという別の報道も読んだので)
被災後の生活を再建するために,住宅の復旧に向けたノウハウの蓄積やそれを担う専門性を備えた人材の確保が必要だと思います。現状では,ボランティア団体が現地に赴き,自治体や地元のボランティアの方々へ指導しながら,復旧作業が進められることが多いように思います。しかしながら,現地の関係者に経験が少ない場合は,復旧がスムーズに進まないこともあります。例えば,ボランティア団体が有しているノウハウを関係各位が共有する機会を設けて,日頃から備えておくことが必要と思います。
浸水における泥出し、時間の経過によるカビなどに対処できるようなテクノロジーとして、人々の負荷を非常に下げるような手法には、どのようなものがありますか。住み替えは簡単ではないことや恐らく居住場所自体に困る人々も今後増えるかもしれないこと(むしろ公営を増やすのでしょうか)、空き家対策等を鑑みると、緩和や適応だけでなく、被災後の対応もまた重要に思えます。
現状では確立した手法が存在するわけではなく,復旧に携わった方々が手探りでノウハウを蓄積している状況だと思います。今後は,そのようなノウハウの妥当性や効果を検証することが必要と考えています。また,発災直後に自宅にとどまれない場合,一時的には避難所が開設されますが,避難生活が長期化することを想定すると,「見なし」を含めた応急仮設住宅を確保することも重要になります。その際,提供される応急仮設住宅は「仮の住まい」にはなりますが,被災者の方々にとっては「仮の生活」ではありませんので,適切な住生活が送れるように最大限の配慮が必要と考えています。
建設業における労働者の状況等も非常に問題が多いようなので(インフラ全般かとは思いますが)、どのようにすれば、より広く「ハザード」を捉えるようにできるでしょうか。
まさに流域治水のコンセプトの通り,関係各位がそれぞれの立場で理解を深めて対応することが必要です。今後も,そのための仕組みや仕掛けの構築が重要になると考えております。
個人の建築物の耐水性を高める工法(高床、防水壁など)に対する建築物性能評価、保険制度、国の補助制度などが必要と思いますが、現状はどのようでしょうか。また、浸水深が大きい場合は対策が難しいと思いますが、想定浸水深と建築物の耐水化・強靭化の評価手法などどのようにお考えでしょうか。
水害に対応した建築物の対策が事前に施されるという発想は十分に浸透している訳ではありません。現状では,耐水性を備えた建築技術開発やそれらの性能評価の仕組みづくりに着手している状況です。保険制度は水災保険が存在しますが,今後は,浸水想定エリアを反映した地域区分や耐水技術導入の程度に応じた保険レベルの設定が整備されることに期待しています。日本建築学会でも,土木分野の専門家を交えて建築物の耐水化や強靱化に関わる課題抽出や情報整備を進めており,分野の枠を超えて協働しています。

農業農村工学会「農業農村の強靱化に貢献する農村防災技術」後藤高広
田んぼダムのようなグリーンインフラだけで、グレーインフラなしでの治水、防災は、どの程度可能でしょうか。
農業用ダムやため池の事前放流なども含め、これら流域治水にかかる取組は、下流域の湛水リスクの軽減に一定の効果が見込まれます。しかし、効果の大きさや効果の及ぶ範囲は、降雨特性や地理的条件、取組手法等により違いがあると言われております。これらの詳細については、更なる実証試験や研究が進められているところです。
人口減少地域においても、ため池を管理する人員は足りている状況でしょうか。
現在は、ため池毎に管理者が置かれています。しかし、人口減少地域等での管理体制は、年々厳しい状況になっていると思います。必要に応じて、ため池の統廃合や代替え水源の整備と合わせたため池の廃止等を検討する他、使用しないため池を廃止する等、放置を防ぐための取組が大切です。
田んぼに近接し、宅地が高くない住宅への浸水が現に起きています。この場合田んぼダムの機能はどう想定されていますか。また、市街地内を流れる農業用排水路が溢れ、市街地の床上浸水の事例も出てきています。農業用排水路には、山からの雨水や道路側溝の雨水も流れ込む場合もあります。市街地を流れる農業用排水路対策は、都市計画等と連動して進める必要があると思いますが、そのような事例はありますか。
田んぼダムの取組については、あらかじめシミュレーション等を行い、取組適地であるかを判断することが重要です。畦畔を越える過剰湛水が生じると田んぼダムの機能も消失し、効果も期待できなくなります。
農業用排水路対策を都市計画と連動して進めている事例については把握しておりませんが、農業用排水路が農地以外の湛水防止機能等を必要とする場合は、農業用排水路の管理者と自治体等が連携し、適切な費用負担のもと整備水準や管理体制等を調整することが必要だと思います。