防災学術連携体・特別シンポジウム

自然災害を取り巻く環境の変化-防災科学の果たす多様な役割-


関連シンポジウム:自然災害を取り巻く環境の変化-防災科学の果たす役割-(2022年10月22日16時30分~)
当日のシンポジウム終了後に質問用紙にて寄せられました質問に対して回答させて頂きます。
日本活断層学会「阪神淡路大震災から四半世紀:活断層をめぐる状況」鈴木康弘
活断層の調査を進め、地震に対する社会の安全性を高めることは重要な取り組みだと思います。対象とする土木・建築の種類によると思いますが、原子力発電所のように一度災害が起こると、初期建設費の何千倍、何万倍の被害を及ぼすものと、木造住宅のように倒壊を防ぐことができれば被害はある程度の範囲に収まるものがあります。建築基準法の地震地域係数について、熊本県は、戦後の基準では一律0.8でしたが、2000年の基準法改正で0.8と0.9に設定されています。熊本地震の後に一律1.0(東京と同等)にあげてほしいとの活動がありましたが、行政には慣性力があり、現状維持することになりました。鈴木先生のお考えはいかがでしょうか。
熊本の地震地域係数を1.0に引き上げるべきかどうかというご質問をいただきました。私は九州だけ低いことに合理性はないなので、引き上げるべきと思います。ただ、ご質問者も仰っているとおり慣性力にあがなうことは難しいのかもしれません。福岡市は条例により警固断層沿いを地域指定して、耐震化強度を1.25にすることを奨励しました。これは見習うべき方法と思います。福岡市は当時0.8であったため、0.8×1.25=1.0であり受け容れられやすかったのかもしれません。さらに福岡市はこれを受け入れた建物名を公表しています。耐震化は経済的にもマイナスばかりではないはずなので、できるだけ多くの人に歓迎される方策を工夫すべきと思います。
日本地震工学会「津波に対してレジリエントなまちづくりにおける堤防のあり方」有川太郎
有川先生の、奄美大島のように、ハードが出来ていない方が避難率が高いというお話は、ハードをしっかりつくると、安心してしまうので、ハードはほどほどにするなど、ハードとソフトとの役割分担を見直す検討をすることを、他の分野でも考えた方が良いのでは、と思いました。
コメントありがとうございます。他国と行動の比較をした結果からは、現状の日本の海岸部における防護高さは過剰気味で、自然との交わりという大事な要素を失いつつあるように感じています。その大切さを考慮するような方法論をしっかりと提案していくことが大事だと考えています。
日本地図学会「場に刻まれた自然災害記録の空間科学的展開-地図化による人と災害の関わりの可視化」黒木貴一
今後廃社が加速(もしくはそもそも記念碑が建てられなくるなど)した時に、記念碑としての地図記号のみが書かれる方法にシフトする可能性もありそうだと感じました。現実の地理情報なき時層記録という解釈はあり得るのでしょうか。大変貴重なお話をありがとうございました。
神社には多くの奉納物(記念碑)が集合しています。この背景には,神社が1000年以上も人々と関わりが続く場であること,私達日本人が様々な理由で石に文字を刻み設置する文化を色濃く持つこと,そして明治以降に神仏分離と都市化が進展したこと,にあると思います。ただ現在は都市化と少子高齢化により廃社は現実味を帯びてきました。現実には既に失われたにも関わらず,最近まで何十年も地形図に桑畑記号が記載されていたように,コメントで指摘された現実の地理情報なき時層記録という解釈は十分成立すると思います。ただ廃社時でも,明治維新以降のように,他の管理用地へ奉納物移転がかなうよう被災記録所持の有用性を見出して後世に伝えることが必要だと考えています。
水文・水資源学会「気象制御へむけた制御容易性・被害低減効果の定量化」小槻峻司
「台風等の(発生源)元を断つような方法は考えられますでしょうか。台風を発電等でエネルギーを得るような平和利用できますでしょうか。
台風の大きなエネルギー源は水蒸気による潜熱放出ですので、潜熱供給を遮断することが出来れば(例えば海表面に油膜を張るなど)、環境影響を無視すれば根本的なアプローチはあるかと思います。ただ、台風は低緯度から極側への熱輸送の役割も担っています。台風の発生を抑制すれば、地球としてエネルギー収支を保つために、他の代替手段で熱輸送が行われるはずなので、そういった副次的効果も事前に検証する必要があります。
台風の膨大なエネルギーを平和利用する、というアプローチも考えられます。この観点では、ムーンショット領域の中では、横浜国立大の筆保教授のグループで検討が進められています。
日本地理学会「防災につながる地理的知識の普及に向けて」八反地剛
不動産業者に対する教育やセミナー等は考えられますでしょうか。
現時点では特定分野へのセミナーは検討しておりませんが,今後の活動の参考にさせていただきます。なお、日本地理学会では災害に関連する公開シンポジウムを年に1〜2回程度(3月・9月)行っております。どなたでも参加できますので,関心をお持ちでしたら是非ご参加ください。